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マルコム・マクラーレン インタビュー|Dazed Japan 📄

Still Playing Games
取材・文:内田伸一 撮影:本田ひろこ
Dazed & confused Japan (30) (2004/09)



1946年ロンドン出身。ロックバンドのマネージャー、ファッションデザイナー、ミュージシャン、 起業家。セックス・ピストルズの仕掛人として知られる。80年には自身の名義でアルバムを発表するなどもした。
※2010年4月8日永眠。墓碑銘は"Better a spectacular failure, than a benign success".


セックス・ピストルズを世に送り出して悪名を馳せた70年代、自らアルバムを発表し、ヒップホップ・カルチャーの導入などで注目された80年代、アートや映像にも食指を拡げ、講演なども精力的にこなしてきた90年代。2000年にはロンドン市長選出馬というニュースで世間を騒がせた男は、意外なかたちで久しぶりに日本を訪れた。しかし、昔話をしている暇は、今の彼にはないようだ。



ホテルの一室にルームサービスが運ばれて来たとき、マルコム・マクラーレンはようやく機関銃掃射のような彼の独演会に一息入れることを思い付いたようだった。この良くも悪くも伝説的な人物のインタビューに際し、最初に投げかけた質問は「今回は、いま現在のマルコム・マクラーレンについて聞きたい」というものだった。それに応えて彼が意気揚々としゃべり始めてから、すでに15分以上が経過。昔話は一切なしだ。

今回、彼はこの夏に東京で開催され、各地を巡回予定の『KITTY EX.』展の招待作家として来日した。マルコム・マクラーレンとハローキティ!? 参加作家の意外性が売りでもあるこの企画のなかで、その奇妙さにおいては最も突出した人選かもしれない。

「私が最近、何をしてるかって? ご覧のとおり、キティちゃんのトーテムポールをここ日本まで運んで来たところだよ! 本物を作ってもよかったけれど、倒れて死人が出たりするとマズいだろう? だから、絵でやることにしておいたけどね」

昔のコンピュータ・ゲームのような荒いピクセル画で描かれたトーテムポール。その絵は、可愛い子猫やインディアン文化以外にも、現在彼の興味を引きつけているものを反映している。今の彼のお気に入りは“ゲームボーイ・ミュージック”と45回転のアナログレコード文化を融合させることのようだ。現在はパリとニューヨークを半年ごとに行き来する生活をおくる彼は、久々に自分を刺激してくれる音楽に出会ったらしい。

「パリの町外れの倉庫街にスタジオを構える、若いアーティストたちがいるんだ。彼らはごく初期のゲーム・カルチャーの音源を利用して、全く新しい音楽を作っていた。君たちもスペースインベーダーとかをプレイしたことがあるだろう? こうしたビデオゲームの登場はインタラクティブなポップカルチャーの始まりと言える現象だった。当時のゲーム・ミュージックはビジュアルのインパクトに比べるとそれほど目立ってはいなかった。でも、その倉庫で聴いた音楽はエキサイティングだったよ。あるソフトウェアを組み込んだチップをゲームマシンに差し込むと、そのデータを変換した音楽が演奏できるようになる。まったく賢い奴らだと思った。ミュージック・ハッカーさ。古い音楽資産をハッキングするんだ。まあはっきり言うと、合法的ではないやり方でね。昔のATARIとか、コモドール64といった古風なゲームマシンも使っていた。洞窟のようなその倉庫で、古い音楽から新しいものが生まれていたんだ」

彼は背筋を伸ばして上品にコーヒーを口に含むと、話を再開した。この倉庫街の片隅で行われる怪しい活動にすっかり惹かれたマルコムは、自らもそこに参加することにしたという。もちろん、彼一流のやり方でだ。

「彼らと共に作った電子音楽を、45回転のアナログ・レコードにプレスした。古い文化と新しい文化をミックスするこの音楽には、こうしたアウトプットの仕方が最適だろう? 45回転ってセクシーだしね。CDでも、インターネットのダウンロードでもない、これらはよりアンダーグラウンドで、かつリアルなものになる」

こうして、ごく少量のレコード(100枚単位らしい)がプレスされた。デジタル音楽なのに完全にアナログなフォーマットで作られ、アナログな経由で人の手に渡る。

「こういうのが本当の取引だ。そう、オーセンティックなんだよ。私はオーセンティックなもの全てを愛する男だ」

クエンティン・タランティーノとの取引も、彼に言わせればそんな“オーセンティック”」なやり方のひとつかもしれない。パリで彼に会ったマルコムは自分の手がけた曲をいくつか手渡し、そのなかの1つが映画『キルビル2』で使われることになった。来年の始めあたりにマルコムが出そうと思っているアルバムにも、この曲は加えられる予定だ。

今年の1月には、この“ロックンロールとゲームボーイの幸せな結婚”的なアイデアによるローファイ・パーティ『FASHION BEAST』もプロデュースしたという。会場は、フィレンツェの『PITTI IMMAGINE UOMO』(メンズファッションの大型展示会)。そこにはオールドファッション・スタイルのゲーム画像が展開され、そこでバンドやゲームボーイ・ミュージシャンたちが演奏する。

「ローファイ、ローテク、巨大なピクセル画。まさに8ビットの世界だ。そして、ミュージック・ハッカーたちはステージのライトの下には姿を現さない。彼らは完全な匿名性を好むし、ドレスアップして『ハロー、僕はハッカーだよ』なんてアナウンスするわけないだろう? ステージでは、中国のガールズ・バンド“ワイルド・ストロベリーズ”がジミ・ヘンドリックスの『フォクシー・レディ』を演奏してくれたよ」

ワイルド・ストロベリーズの面々とは、北京を訪れた際に出会ったという。

「北京はエネルギーに溢れている。本当の意味で21世紀の街だ。古き良きものが、気持ちよい形で新しい何かへと変わっていく感覚。様々な音楽にも出会ったよ。チャイニーズ・パンク、チャイニーズ・ヒップホップ、チャイニーズ・ヘヴィメタル、チャイニーズ・カラオケ! なかでもワイルド・ストロベリーズが特に気に入った。ちょっとおぼつかない英語での会話、ロックンロールの歴史の話のあと、『フォクシー・レディ』をプレイしてみたらどうかということになったんだ。21世紀の北京に生きる可愛い彼女たちが、アメリカの古典的なマッチョ・アンセムを歌うのはおもしろいと思ってね」

Malcolm McLaren’s Fashion Beast Party(動画)

ここで彼の機嫌が非常に良いようなので、ちょっと勇気を出して聴いてみた。「あなたの一連の活動の原動力は、アーティストとしての表現欲なのか? それとも、あくまで金儲けのためなのか?」。マルコム・マクラーレンは、こちらが言い終わる前に即答する。

「どんなこともビジネスだと思ってやってるつもりはないよ! 私のことを冷徹なビジネスマンだと言う連中もいるけど、そう見えるように私が振る舞ってきただけさ。特に、初めて音楽の世界に踏み込んだ頃はね。業界のことを何も知らないのに、とにかくマネージャーの役目を果たさなければならなかったから。それは、ちょっと俳優の仕事にも似ている。映画が始まり、セックス・ピストルズが登場する。そして私はマネージャー役を演じるっていう感じだ。『この契約を要求する!』と叫んでテーブルに拳を振り下ろしたり、ドアを蹴りつけて部屋に入ったりね(笑)。カンフー映画のワンシーンみたいなものだ。ただしそれは、あくまで演じているだけ。そして、一度始めたら続けなくてはいけない。そのうち、私は演じることを楽しむようになった。恐れる必要もない。だってただの演技なんだから!」

それでは今、目の前にいるマルコム・マクラーレンは、何を演じているのか? それを聞いても彼が正直に答えてくれるかどうかは怪しいものだ。ただ言えるのは、彼が今もって現役の“大きないたずらっ子”であり、彼自身が繰り広げるゲームの主役であり続けているということだ。そして、こちらが迷惑をこうむる立場に立たされない限り、確かに魅力的な人物である。  彼は、“ファッションのためのファッション”や“音楽のための音楽”には興味がないと言う。常に、何か2つ以上のものが融合する事に惹かれるらしい。音楽がどう“見えるか”、ファッションがどう“鳴るか”。例のピクセル画と45回転のレコードにも、そんな彼の好みが垣間見える。ここで彼はちょっとだけ昔話をサービスしてくれた。ヴィヴィアン・ウェストウッドとの出会いと、その決別。彼のこうした志向性がヴィヴィアンとは異なっていたことが、2人がやがて別の道に進んだ理由のひとつだった、とマルコムは言う。

「彼女は私の初めてのガールフレンドであり、ミューズであり、また母親のような存在でもあった。ヴィヴィアンが私の子供を身ごもったとき、私はまだアート・スクールの学生でね。私の童貞喪失からしばらくして、彼女の妊娠が発覚したんだ。稼がにゃならん、ってわけさ。それで、彼女と2人でキングス・ロードの端に小さな店を開いた。私は実家が衣服工場を経営していたから、子供の頃から得ていた知識を全てヴィヴィアンに教えて、一緒に作った服を売ることにした。それが出発点だ。小さな頃の体験と、アートスクールでの経験、ヴィヴィアンとの出会い……。あと、ロックンロールも忘れちゃいけない。そう、ここでも“融合”だよ。もっともヴィヴィアンの方はもっと純粋に、ファッションのためのファッションを見つめている人だったけどね」

そう言って彼は、このインタビューを締めくくった。しかし、昔話のせいでちょっと湿っぽくなってしまったかといえば、その心配の必要はなさそうだった。30分後、ホテルのレストランから大きな声が聞こえてくる。別の聞き手を前に、彼の独演会が再開した模様だ。

「君たちもスペースインベーダーとかをプレイしたことがあるだろう……」

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