Who's NUMEN / FOR USE?|Spiral Paper No.134 (2013)
Numen / For Use
スヴェン・ヨンケ、クリストフ・カツラー、ニコラ・ラデルコヴィッチによってインダストリアルデザイングループとして1998 年に結成。オーストリア、クロアチアを拠点に活動。舞台美術、インダストリアルデザイン、空間デザインパブリックアート、インスタレーションまで領域を超えた様々な分野で活躍する。「FOR USE」は主に機能的な家具等のデザインをするときに使用し、その枠を超え、より自由なクリエイションを制作するときは“本質・実質”の意味を込め「NUMEN」として活動をしている。
イタリアの古い宮殿内に、ドイツの大聖堂を見上げる屋外空間にと、世界各国に忽然と現れる巨大繭(まゆ)のような構造体。まるで幻想劇のワンシーンのようだが、その正体はアートユニット・NUMEN / FOR USE の代表作「テープインスタレーション」だ。この秋、アジア初個展としてスパイラルに同作品を出現させ、これに先がけ横浜でも大作を展示予定の彼ら。集う人すべてを自然につなぐ場を生み出す、その創造力の源について聞いた。
インタビュー・文 内田伸一
皆がそこで何かを感じ、受けとれる“場”や“状況”をつくりたい
NUMEN / FOR USE は、クロアチアとオーストリアを拠点にする3人で1998年に結成された。近年は空間を一変させるダイナミックなインスタレーションで注目されるが、その活動は家具デザインからアート制作まで幅広い。メンバーのスヴェン・ヨンケはこう語る。
「これには当時の社会状況も関わっています。出発点は、大学時代に知り合った3人によるインダストリアルデザインのユニット“FOR USE” 。でも結成当時、クロアチアはユーゴスラビアからの独立に続く紛争の終結から間もない状態でした。工業は停止し、僕らは自らの仕事を発掘するところから始める必要があった。そうしてグラフィックから展覧会空間のデザインまで、やれるものにはとにかく挑戦してきた結果なんです(笑)」
2005 年、舞台美術の世界に進出したのが転機となる。スロヴェニアの鬼才演出家・トマズ・パンドゥールと挑んだ古典、ダンテの『神曲』に用いた実験的なセットが注目された。物語はマジックミラーとネオンを使った立方体の中で展開され、観衆は一部始終を眺められる一方、俳優陣には無限に続く自分たちの鏡像しか見えない。それは意味深かつ、視覚的にも強烈な状況を作り出した。以降も活躍は続き、最近では2011 年の国際舞台美術展「プラハ・カドリエンナーレ」で、クロアチア代表として最優秀ステージデザイン賞・最優秀シアター・テクノロジー賞を獲得してもいる。
「舞台表現はあらゆる芸術を含み、建築やデザインにはないファンタジー要素や自由さも魅力でした。これにのめり込んで数年経ったころ、そこで生まれた舞台美術には、単体でも存在し得る力があると気づいたんです。それが現在のインスタレーションにつながっていきました」
この秋、スパイラルでの個展『TAPE TOKYO』には「テープインスタレーション」が出現する。名前の通り、実は梱包用の透明テープを幾重にもつなぎ、巻き付けて生まれる作品。これも、ある舞台でダンサーがテープを持ち、自らの動きの軌跡を舞台上に視覚化していく試みから発展した。そんな背景に加え、実際に中へ入って体験する形をとるためか、同作は強い身体性をも帯びている。
「今回は制作の様子も公開するので、ある意味パフォーマンス的要素もはらみます。また、この作品は歴史的建造物から屋根裏のような所まで、様々な所で展開してきました。今回は開かれた都市空間での挑戦で、かつスパイラルのようなポストモダンの建物は初めてなので、僕ら自身も楽しみです。素材や現場の制作協力者はいつも現地で集めるので、そこで生まれ、続いていく交流も僕らにとって大切なものです」
デザイン出身らしく素材と向き合うことを重視する一方、舞台で培った、場や観衆との関係性にもこだわる。同シリーズを多様な環境でつくり続けるのも、まさにその点を重視するからだという。
「この作品では毎回、訪れた人が全感覚で浸かれる体験と同時に、都市そのものと直接つなげられる“場” を作っているつもりです。ただ、あまりコンセプチュアルなことを語るより、皆さんで実際に確かめてもらうのが一番かな(笑)。それは写真で見るのとも、まったく異なる体験になると思う」
彼らはスパイラルでの個展に先がけ、10 月の「スマートイルミネーション横浜2013」にも参加予定。こちらの作品「Net Blow-up」[ネット・ブローアップ]は、人間が乗って動けるネット(網)を何層も張り巡らせるシリーズだ。今回は建造物などに固定せず、空気でふくらむ巨大構造物の中にネットが広がる。
「これは同シリーズでも世界初公開となる試みです。アナログ的な実空間でありながら、バーチャルな感覚をももたらす、ある意味でこの時代らしいものになりそうです」
観衆が作品の中へ入っていくと、その様子がまた「絵になる」。そんな作風が多いとも感じるが、これにはこんな答えが返ってきた。
「そう、僕らが手がけるものはすべて、観客のために存在します。これらのインスタレーションは、日常を離れた未体験の状況に放り出された状態をつくることでもある。視覚的・造形的な魅力だけでなく、皆がそこで何かを感じ、受けとれる“場”や“状況”をつくることも大切だと考えているんです」
舞台芸術における彼らのユニークな仕事のひとつに、円形仮設劇場による「Circus Destetica」[サーカス・デステティカ]がある。客席を360 度囲む形で深紅のベルベットカーテンが張られ、そのあちこちが開くと…… その向こうにあるアドリア海の光景がそのまま、刻一刻と変化する「舞台美術」になるというものだ。最後はカーテンが取り払われ、演者たちに囲まれた観衆は、劇を外側から眺めるのではなく、その中心となって舞台そのものと重なり合っていく。
「インスタレーションにもそうした要素を織り込みたい。ネットの作品ではさまざまな面が重なり合い、人々の体も重なって見えるし、かつそれらは動きを伴い変化していきます。テープの作品では、点が線に、面になって生まれた空間を人々が行き来する。中を這うように進むのは、大人にとっては2 本足で歩けなかったころに退行するような体験かもしれません。でも、子どもたちには割とおなじみの移動方法でしょう。そういう形での“重なり合い”も面白いですね」
作品を通して様々なモノ・人・場をつなげていく彼ら。ところでユニット名もNUMEN / FOR USEと2つの言葉をつなげている理由は?と聞くと、最後にこんな話をしてくれた。
「最初、自分たちの手がけた製品を裏返したときに大仰に“Designed by ~”とあるよりも“FOR USE”(使うためのもの)とだけ書いてあるのがいいと思い、そう名乗りました。やがてデザインを超えた創作に進む際、“NUMEN”の名も使うようになりました。でも同時に、表現に境目はないと思う自分たちもいる。実際、今度は舞台やアートで得たものをデザインに活かせる状況も生まれています。だから使い分けるより、常に“NUMEN / FOR USE”と名乗ることにしたんです」
NUMENの名は、「実体=noumenon」に由来するが、numenはまた、創作力や、場に宿る霊的存在をも意味する言葉。「NUMEN FOR USE」と続けて読むと、まったくもって、彼らにぴったりな名前にも思える。